大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和47年(あ)1209号 決定

本店所在地

東京都渋谷区代々木一丁目三六番地 代々木駅前ビル内

株式会社 日綜

右代表者代表取締役赤松繁行

本籍

東京都練馬区上石神井二丁目一五〇四番地

住居

東京都中野区中野五丁目五二番一五号 中野ブロードウエー八一二号

会社役員

赤松繁行

大正六年四月二〇日生

右各被告人に対する法人税法違反、住宅地造成事業に関する法律違反および被告人赤松繁行に対する宅地建物取引業法違反各被告事件について、昭和四七年四月一一日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人長尾仁司、同中西正義の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 大塚喜一郎)

○昭和四七年(あ)第一二〇九号

被告人 株式会社 日綜

同 赤松繁行

弁護人長尾仁司、同中西正義の上告趣意(昭和四七年七月二六日付)

住宅地造成事業に関する法律違反について

第一点 原判決には重大な事実誤認があり、右は判決に影響を及ぼすべきものである。

一、本件については住宅地造成事業に関する法律(宅造法という)は、昭和三九年十月一日から施行された法律であり、右法律違反に該当する事実は、昭和四〇年七月二五日当時であり、その当時は、右法律の具体的内容、右法律による規制内容それ自体徹底していない時期である。

そして、千葉県にあつてはその当時は造成法の規制を受けない地域がほとんどであり、特段の行政指導もななかつたのであり、このことは一般人は勿論、不動産業者にしても同一で、まつたく右法律の具体的内容は当時知られていなかつたのである。

従つて、被告人赤松が右のように造成法の存在を知らなかつたのは己むを得ないものといわねばならない。

そうであれば、右の場合、被告人等には違法性の認識がなく、従つて、犯罪の故意がないこととなり、本件は無罪である。

二、原判決は、右の点につき、被告人赤松の昭和四二年十二月二〇日付及び同年同月二七日付供述調書に基き、同人が造成法の規制内容を知つていた旨認定し、第一審及び控訴審での被告人のこの点に関する供述は措信できない旨判断している。

三、しかし、被告人赤松が真実、右宅造法の具体的内容とりわけ、事業主は、宅地造成着手前に千葉県知事の認可を受けなければならないことを知つていたのならば、右法律による手続をとつたはずである。何故ならば、右手続は、複雑なものでもないし、右許可を受けないことにより事業主が特段の利益を受けることもないのである。

むしろ、許可を受けないことによる不利益の方が、はるかに大なのである。

それ故、被告人赤松が、万一、宅造法の内容を知つていたのであるならば、右法律に違反して、造成事業に着手することなどあり得るはずがないのである。この点に関する原判決の判断は判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認である。

宅地建物取引業法違反について

第二点 原判決には判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認がある。

一、被告人赤松は、相被告人長島忠雄と原判決判示のごとく、道路部分を私道として売却するように指示したこともなければ、同人とこれを共謀したこともない。

そして、道路部分が八千代町の管理する公共施設に当るべきものであることは担当セールスマンにおいて各買主に説明している。

二、右一項の共謀の点については、被告人赤松と相被告人長島忠雄との間で協議したことは、仕切価格と販売期間のとり決め以外には何もない。そして、相被告人長島は、被告人の使用人でもないし、部下でもない。その当時から、被告人長島は、独立した業者であつて、被告人赤松以外の他の業者の仕事もしている。

この点に関して、相被告人の長島は、被告人赤松から、特別指示されたり注意を受けたりした事は、言葉としてはありませんと供述しているし、販売関係は全部相被告人長島に委かしているのであつて、直接被告人赤松は本件販売に関係しているわけではない。

従つて、共謀に類する行為が明確にあつたわけでもない。

三、また、相被告人長島のみ一四回公判調書記載部分にも「お客は大体道路は市に帰属することは承知していたのか」という質問に対し「ほとんど承知しているはずです」供長島は供述している。

他方、販売当時既に道路分と敷地分は明確に現地は区面されていて、道路と敷地が一体になつていたわけでもない。

四、販売契約書にも、道路分は権利面に記載されない旨の記載があり、ただ買主全員の契約書にその記載があつたわけではないにしても、買主一一九名中の半数に相当する五九名の契約書にその旨の記載があり、残りは、販売当日多忙の為右趣旨を表わすゴム印押印できなかつただけである。

五、普通、宅地の販売は売主の方は、現場で多数の客を相手に現地を案内して種々説明し、他方買主の方は買主同志で代金支払、手付の額等を話しをするのが通常であり、その際約半数もの人々が、道路部分は買受けることができないことを知つている以上、他の買人も、このことは右客から聞いて知つているのが普通である。

六、右事実からみれば、道路部分を含めて、売買代金は決定されているが、将来は必ず道路部分は、市当局に無償で移譲すべきものであり、従つて、権利面(登記)にも最終的には記載されないものであることを契約書に記載したり口答で説明したりしているのである。

従つて、「宅造法にもとづき、権利面に記載されません」旨の記載があれば、宅建法にいう要件は満たしているのであつて、「取引の重要事項の告知」は右程度で充分であるといわねばならない。

それ故、契約書に右事実の記載のある買人に対する部分は少くとも無罪であるといわざるを得ない。

この点を看過した原判決には重大な事実誤認がある。

法人税法違反について

第三点 原判決の量定は著しく不当でこれを破棄しなければ正義に反する。

一、本件関係の課税額である法人税及び重加算税は合計一億六八六七万八七〇〇円であり、これ等の延滞税は合計一八八六万四四三〇円である。

二、そして右税金に対し、第一審判決まで、合計一億五九〇二万二七九六円を納税し、その残は二八五二万余である。

三、被告人会社は、本件以外に昭和四二年二月期以降昭和四五年二月期までの法人税が未納になつており、右未納税額と本件の未納税額の総計は一億七六五万円余である。

四、右未納税額に対し、被告人会社は第一審判決後、第二審判決までの間に五〇六〇万三六五〇円を納税し、国税局に対し、その所有にかかる不動産、商業手形、合計四〇〇〇万八七七六円を提供し、結局右被告が現在負担している未納税は五七〇四万円余である。

そして、右未納税額に対し、国税局は被告人会社の提供した不動産の見積額七一四〇万円余のものを差押え公売手続中である。

五、従つて、右公売手続が終了すれば本件関係の課税額は勿論、本件以外の未納税も完納できるのである。また本件につき課された重加算税四〇〇〇万円余は罰金と一脈相通ずるものであり脱税するに至る動機、善意の自由申告が認められなかつたこと等を考慮すれば、原判決の量刑は不当に重きものである。(特に懲役一年に処した点)

よつて以上三点につき、判断を求める為本件上告に及ぶ次第である。

以上

右は謄本である。

昭和四八年六月一四日

最高裁判所第二小法廷

裁判所書記長 青木高弥

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例